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高松高等裁判所 昭和31年(ネ)121号 判決 1956年10月20日

控訴人(原告) 妹尾市太郎

被控訴人(被告) 川島税務署長

訴訟代理人 越智伝 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す被控訴人が控訴人に対して昭和二十八年四月三十日附でした控訴人の昭和二十六年度分所得額を金百九十八万七千八百円とする更正決定のうち譲渡所得金百八十五万円とする更正部分は之を取消す訴訟費用は第一審第二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は

控訴人において

(一)  被控訴人は請求趣旨記載の更正決定において控訴人の昭和二十六年度分の所得額を事業所得金十三万七千八百円、譲渡所得金百八十五万円、総所得金百九十八万七千八百円とする旨更正したのであるが、右のうち事業所得の点については争はないが、(この点については砂糖製造収支計算書を提出して審査を求めていたが昭和二十九年二月六日乙第一号証の如く「事業所得には異議なき旨」申立てているので砂糖製造業における損失は主張しないものである。)譲渡所得が存在するとした点並にその額を争う従つて総所得額をも争う。

(1)  当時施行の所得税法によれば譲渡所得とは同法第九条第一項第八号に定めるところにして「資産の譲渡に因る所得」を指称し、特に営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得及同法条第一項第七号所定の所謂山林所得即ち「山林の伐採又は譲渡による所得」を除くことを明示しているのである。

然るに控訴人は昭和二十六年中において所謂譲渡所得を得た事実はない。唯控訴人は訴外竹原良子と共同で昭和二十三年六月十二日に訴外富永丑蔵より徳島県三好郡三野町大字太刀野字白谷山所在山林の松立木(地盤を除く)を金二十五万円で買受け之を同二十六年五月十五日訴外多田市郎に金二百二十万円で売却した事実があるのみである。右売却に因り得た利益金は前記法条第一項第七号に規定する「山林の伐採又は譲渡による所得」即ち山林所得であつて、譲渡所得ではない。此の点につき被控訴代理人は原審の昭和三十一年一月十八日最終弁論において、譲渡所得として金百八十五万円とする更正決定をしたことの適法性を論じたものは全くないのみならず、却つて、被控訴人は山林所得が金百八十五万円であると主張しているこれは、被控訴人が控訴人に対する本件更正決定において、昭和二十六年度分の所得総額金百九十八万七千八百円とした更正においては譲渡所得金百八十五万円と決定したが、その譲渡所得に相当する事実はなく、それは山林所得であつたことを被控訴代理人において自白したものと謂うべきであるから控訴人はこの点を利益に援用する。

叙上説示により本件所得の種類別判定には明かな違法性があるので、被控訴人のした更正決定はこの点において違法である。加之、控訴人は所謂譲渡所得の点について再調査を求めたもので、所謂山林所得については再調査を求めたこともなく、又、審査決定を受けたこともなく、又出訴したものでもないに拘らず、原審においては、被控訴人は前記控訴人の山林立木売却に因る所得を所謂山林所得であるとの前提の下に抗争し、原判決も亦山林所得についての判断をなしたのであるが、右は所謂訴願を経ず且出訴の目的となつていない事項につき判決をなし、以て民事訴訟法第一八六条に違反するのみならず出訴の目的たる譲渡所得の点についての判断を逸脱した違法がある。

(2)  仮りに控訴人の所得が所謂譲渡所得であるとするも、原審主張の通りその額を争う。と訂正補陳し、

被控訴代理人において

(一)  控訴審における請求の趣旨の変更及之に伴う控訴人の主張は民事訴訟法第二五五条違反であるから異議がある。

本訴は第一審において準備手続を経たものであるに拘らず、控訴人は控訴審において請求の趣旨を変更し「何等更正処分のない山林所得については何等訴訟の対象物とする必要はなく……譲渡所得はないのであるから更正決定処分は違法である」と新らたな主張をせんとしている。既に第一審において明確にされている通り、控訴人の農業と砂糖製造により生じた所得のほかに、控訴人主張の山林松立木の売却により生じた所得の多寡については攻撃防禦が行われ、この所得の種類が譲渡所得でないとの主張は、何等行われていないばかりか、山林譲渡による所得のあつたこと(その数額には争がある)は控訴人において認めていたものである。従つて控訴人が本件において第一審における請求の趣旨の変更をなし、新らたに所得の種類別附記事項について主張をすることは、民事訴訟法第二五五条に違反するばかりか時機に遅れて提出された攻撃方法と謂わざるを得ない。

(二)  本件立木の売却による所得の種類を譲渡所得としても違法はない。

所得税法(昭和二七、三、一三法律第五三号による改正前のもの以下同じ)第九条第一項第七号による山林所得とは、山林の伐採又は譲渡に因る所得であり、同条同項第八号の譲渡所得には第七号による所得は勿論除かれているが、そもそも山林所得とは山林経営による所得をいうのであるから、山林を買入れ直ちにこれを伐採又は譲渡した場合のように「山林経営の実を伴わない場合の所得」は山林所得に該当しないものであつて(昭和二六年一月国税庁長官基本通達第一三一号参照)原則として譲渡所得として取り扱うべきである。

本件についてみるに、控訴人は昭和二十三年六月に物価の上昇を見越し、土地を除き本件の立木のみを二十五万円で買入れ、買入れに関連して訴訟を惹起したが、同二十四年十二月示談解決となり、控訴人は、はじめて当該立木の所有権者となつたもので、これを同二十六年五月に買入価格の約九倍にあたる二百二十万円で譲渡したものであつて、その間においては何等山林経営の実を伴つたとは考えられ得ないし、単なる転売による投機的な利得を目的としたことが明かであるから、その所得の種類は山林所得とするよりは、寧ろ譲渡所得と見るのが至当と解せられる。従つて、当初被控訴人が為した更正通知書に総所得金額百九十八万七千八百円とする内訳として、事業所得十三万七千八百円のほか、百八十五万円を譲渡所得と表示したことは決して違法な表示ではない。

(三)  所得の種類別判定にたとえ違法性があつたとしても次の諸点により控訴人主張は失当である。

(1)  所得税法第四六条第七項の規定による更正決定の通知を受けた者は、「所得税法第二六条第一項第一号乃至第五号若しくは第十号に規定する額」に対して異議があるときは再調査の請求をなすことができると定められている。(所得税法第四八条第一項参照)

即ち同法第四八条第一項の規定による再調査の請求をなすことができるのは、「同法第二六条第一項第一号乃至第五号若くは第十号に規定する額」に対し異議がある場合に限られるのであつて、これらの項に規する事項に異議がないときは、たとえそれらの事項の前提となる事実に異議がある場合、たとえば、同法第四六条第七項の規定により通知を受けた更正について、その通知に係る同法第二六条第一項第一号から第五号まで又は同項第十号に規定する額、即ち総所得金額、課税総所得金額、算出税額、不足税額等に異議がないときは、それらの額の計算の前提となる所得の種類別の金額に異議がある場合であつても同法第四八条第一項の規定に依る再調査の請求ができないものと解する(昭和二六年一月国税庁長官基本通達第六三六号参照)

従つて、本訴についてみるに、控訴人の昭和二十六年度分の総所得金額が金百九十八万七千八百円であることについて異議をとなえるものでない限り、この総所得金額に基いて算定された課税総所得金額、算出税額、不足税額等については勿論異議の生ずる筈もないのであるから、たとえ所得の種類別の表示に異議があつたとしても、これは再調査の請求要件にはならず、従つて出訴の対象ともならないものと解するので控訴人の新主張は失当である。

(2)  かりに控訴人主張のように当初被控訴人が控訴人に対する更正処分を行うに際し、総所得金額の算出の前提となる所得種別の判定にあたり、山林所得とすべきが正当であるのに、これを誤つて譲渡所得としたものであるとしても、昭和二十六年度分所得税に適用した所得税法による所得金額の算出方法についてみるに、山林所得として算出した場合も譲渡所得として算出した場合も、総収入金額二百二十万円から経費三十五万円を差引く計算になるのであるから所得種類別所得金額の数値は全く同一であつて(現行所得税法においては異る)百八十五万円となり、控訴人の昭和二十六年度分総所得金額は勿論課税総所得金額、算出税額等の数値には何等増減変動なく(昭和二十七年三月三十一日附改正前の所得税法の適用される昭和二十六年度所得税においては山林所得も譲渡所得も税率に相異はない)単に所得種類別の区分が異るのみであつて、租税負担には何等影響なく、従つて控訴人の主張は実益もなく、この程度の瑕疵により更正決定を取消す必要もない。

と訂正補述し

たほか原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。

<立証 省略>

理由

(一)  控訴人が肩書住所地で農業兼砂糖製造業を営み、昭和二十六年度所得額を金十三万七千八百円として確定申告したところ、被控訴人は控訴人の確定申告をしていない控訴人主張の本件山林立木を訴外多田市郎に売却したことにより得た所得百八十五万円を追加認定して、控訴人の昭和二十六年度分所得を事業所得額金十三万七千八百円、譲渡所得額金百八十五万円総所得総額金百九十八万七千八百円、税額金八十六万千五百六十円と更正し昭和二十八年四月三十日附更正通知書を同年五月頃控訴人に送達したこと、控訴人は之を不服として被控訴人に対し法定期間内である同年六月七日再調査請求をなし、被控訴人は右請求を受けた日より三カ月以内に決定をしなかつたので、右再調査請求は当時施行の所得税法第四九条第三項第二号により同年九月七日から高松国税局長に対する審査請求とみなされ、高松国税局長は被控訴人のした更正決定を妥当として、控訴人の審査請求を棄却する旨の決定をなし、控訴人は同二十九年三月二十二日右決定書の送達を受けたことは当事者間に争がない。

(二)  当審における控訴人のした請求の趣旨並請求原因の一部変更に対する被控訴人の異議について判断する。

本件は第一審において準備手続を経た結果控訴人は第一審においては前記被控訴人の為した更正決定のうち所得額金二十七万四千四百六十円を超える部分の取消を求めたのであつたが、控訴審においては請求の趣旨を変更して右更正決定のうち譲渡所得金百八十五万円とする部分の取消を求めたこと、及請求原因として(1) 本件更正決定においては当時施行の所得税法第九条第一項第七号に所謂山林所得については何等の更正処分もなされず従つて控訴人においてこの点については再調査を求めたこともなく、又審査の決定も経ておらず従つて亦出訴の目的にもなつていないものであるから、何等訴訟の対象物とする必要はない旨及(2) 控訴人は同法第九条第一項第八号所定の譲渡所得を取得したことはないから更正処分において前記の通り譲渡所得額を認定したことは違法である旨所得の種類別附記事項についての違法がある旨主張していること、而して控訴人は右の事項については原審における準備手続においてその主張をしなかつたのであることは一件記録に照して明かである。

然れ共控訴人は第一審における準備手続以来更正決定における所得額のうち事業所得(農業及砂糖製造業による所得)については総収入金十三万七千八百円にして、貸倒金七十七万八千九十円の損失を控除すれば事業損失額金六十四万二百九十円となる旨事業所得額を争い(尤も控訴審においてはこの点は争わない)又譲渡所得の点についてはその認定の基礎となれる事実関係において山林立木の売却に因る所得の存在する点は認めて、その数額を争い、従つて所得総額を争つて来た。そこで当事者双方は右争点について互に攻撃防禦の方法を尽して弁論したことは一件記録上明白である。

してみると、控訴人の本訴に依つて求める所は更正処分によつて認定せられた総所得額乃至は之を基準として算出せられる税額の一部取消にあるのであるから、控訴審における右請求趣旨の変更は請求の基礎に変更を来すものとは謂い難く、又請求原因の一部変更についても、前示(1) の点は本件訴の目的物についての見解を表明したもので元より裁判所の職権調査事項であり、又同上(2) の点は本件山林立木の売却に因る所得に対する所得の種類別附記事項に関する見解を表明したものであつて、その素材をなす本件山林立木の売却に因る所得の点については既に十分の審理を経たものと認められるので、之等の点につき審理判断するが為に著しく訴訟を遅滞せしめるものとも謂えないから、当審において控訴人が此の点に関し前記の如き主張をすることは民事訴訟法第二五五条に違反するもの乃至は時機に遅れた攻撃方法であるとは謂い難い。従つて控訴人のした請求の趣旨並請求原因の一部変更は適法にしてこの点に関する被控訴人の異議は採用せず。

(三)  本件更正決定における総所得額認定の適否について判断する。

(1)  本件更正決定のうち事業所得額(農業及砂糖製造業に因る所得)が金十三万七千八百円であることは当事者間に争がない。

次に右更正決定のうち譲渡所得額を金百八十五万円と認定した点について検討するに、その認定の基礎となつた事実関係につき控訴人が(単独であるが、訴外竹原良子との共同事業又は匿名組合により経営したものか否は暫く措く)昭和二十三年六月頃徳島県三好郡三野町太刀野字白谷山所在山林の松立木を(地盤を除く)代金二十五万円で買受け、昭和二十六年五月十五日之を訴外多田市郎に対し代金二百二十万円で売却しその代金を受取つたことは当事者間に争がない。而して控訴人は右山林立木の売却に因る所得は当時施行の所得税法第九条第一項第八号に所謂譲渡所得ではなくして、同条項第七号に所謂山林所得と見るべきである。被控訴人は原審においては本件山林立木の譲渡に因る所得は金百八十五万円ありと主張して、本件所得が法に所謂山林所得であることを自白したのであるからこの点を利益に援用すると共に、本件更正決定は右山林所得の事実を基礎として、譲渡所得(額の点は後出)ありと更正したのは所得の種類別判定に違法がある旨主張するので先ず被控訴人において本件所得を当時施行の所得税法(昭和二十七年三月三十一日附法律第五三号所得税法中一部改正法律による改正前法律、以下同様とする)第九条第一項第七号に所謂山林所得であることを争わないものか否につき検討するに、原審における弁論の全趣旨によれば被控訴人は自ら本件所得を所謂山林所得金百八十五万ありと主張したことが認められる。けれども当審においては控訴人において右自白を援用した後、被控訴人は第一位的には本件所得は前記法条第一項第八号に所謂譲渡所得である旨訂正陳述して原審において本件所得の種類を山林所得とした点を取消したことが認められる。然れども原審における当事者双方の弁論の経過を見るに控訴人においても、本件所得が特に譲渡所得ではなくて、山林所得に該る旨を抗争した形跡もなく唯その所得額につき争われて来た関係上、被控訴代理人においても、之を山林所得であると主張して来たのであるが、本件所得は被控訴人の立証により後記認定の通り譲渡所得であると謂うべきであるから、被控訴人の原審における自白は真実に反して為されたものと謂うべく、従つて亦右は被控訴代理人の錯誤に基くものと推定せられるので、控訴審における右自白の取消は許さるべきである。

次に本件所得が山林所得であるか否の点について検討する。

当時施行の前記所得税法第九条第一項第七号によれば山林所得とは山林の伐採又は譲渡に因る所得を謂うものであり、同条項第八号によれば、譲渡所得とは前号に規定する所得即ち山林所得及営利を目的とする継続的行為に因り生じた所得を除く旨規定せられている。右に所謂山林所得とは山林経営による所得を指すものと解せられているので、通常山林を買入れ直ちにこれを伐採又は譲渡した場合のように山林経営の実を伴わない場合の所得は山林所得には該当しないものと謂うべきところ山林を買入れて之を譲渡することに因つて得た所得は勿論前記条項第四号に所謂事業所得からは除外せられており又同条項の第一号乃至第八号の次に第九号として一時所得第十号に総所得の規定を列挙している規定の位置体裁等から検討するに、右に所謂一時所得とは右第一号乃至第八号までに所定の一定の所得の源泉即ち、動、不動産其の他の資本若くは事業乃至は勤労等から通常生ずる所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時的性質を有する所得を指称し(同法条第一項第九号参照)右に所謂雑所得とは右第一号乃至第九号の所得以外の所得を指称する(同法条第一項第十条参照)を相当とする。従つて右の如き山林所得に該当しない山林立木の譲渡による所得は特段の事情のない限り前記譲渡所得に該当するものと解するを相当とする。尤も現行の所得税法第九条第一項第七号によれば、山林の伐採又は譲渡に因る所得(山林をその取得の日から一年以内に伐採又は譲渡することに因る所得を除く以下山林所得という)云々と規定せられているけれども、右規定の趣旨は右の如く一年以内の短期間の山林保有の場合には山林経営の事実の有無を問わないで之による所得は山林所得には該当しないと明定したまでであつて、これが為に山林を取得して一年以上保有した事実があつたからとて、直ちにその山林譲渡による所得を山林所得であるとする趣旨とは解せられない。右の見解に従つて本件を見るに、控訴人は昭和二十三年六月に本件山林立木(地盤を除く)を買入れ、同二十六年五月に之を譲渡したこと前記認定の通りにしてその保有年限は二年十一カ月に亘ることは明かであるけれども、右は後記の如く買入につき売主等との間に紛争を生じたため訴訟となり、同二十四年十二月五日に示談解決したような事情もあり又控訴人の全立証によるも、控訴人において本件山林を経営した事跡も認められない。かような情況下における本件山林の譲渡に因る所得は前叙に照し到底山林所得とは謂い難く、譲渡所得と解するを相当とする。

従つて本件更正決定には控訴人出張の如き所得の種類別判定につき違法はないものと謂うべく、この点に関する控訴人の主張は採用せず。

次に本件山林立木の売買は控訴人の単独行為か否の点につき検討する。

控訴人は昭和二十三年六月頃本件山林立木を買入れるに当り訴外竹原良子が現金十三万円を出資し、自らは金十五万二千円を出資して、二人で共同事業又は匿名組合契約に依つて該事業を経営した旨主張するけれども(イ)成立に争のない乙第三号証乃至同第十二号証と原審証人大野正一の証言によれば、控訴人は訴外野木秀一の仲介により訴外富永丑蔵から本件山林立木を買受けたのであるが、その売買契約書も買主として控訴人単独名義となしたこと、その後右買入につき前記売主等と訴訟をした上昭和二十四年十二月五日示談解決したのであるが、之等の手続並示談の当事者としては常に控訴人単独にて行動していることが認められ、原審証人野木秀一同竹原良子の各証言中右認定に反する部分は前示各資料に対比すればたやすく措信し難く、他に之を左右するに足る資料はなく、(ロ)又成立に争のない乙第二号証同第三号証同第十四号証と原審証人竹原良子の証言の一部、原審証人八木亀次の証言を綜合すれば、訴外竹原良子は控訴人の娘にして、昭和七年八月頃米穀木炭販売業者某と結婚して尼ケ崎市に居住していたものであるが、同十九年夫が応召した上(現在も未帰還)、終戦当時は右営業を廃めて、夫の給与と株式の配当等により生活していたもので、同十九年八月頃控訴人居住地に引揚げて来たこと。而して昭和二十一年三月十五日同人提出の臨時財産申告書に依れば当時の預金現在高は約一万八千円と記載されあること、又同人は昭和二十六年度の住民税も賦課されていない状況で生活状態も普通以下であることが認められ、前示証人竹原良子の証言中右認定に反する部分は前示各資料に照してたやすく信を措き難く他に之を覆すに足る証拠はない。

加之控訴人の全立証によるも訴外竹原良子が前記資金の一部を更に他から融資を受けたことを認めるには足らない。従つて之等の事情を彼是考合すれば右の如き生活状況並収入財産状態において昭和二十三年六月当時訴外竹原良子が現金十三万円を所持又は借入れ得る資力があり、且之を控訴人主張の該山林立木買入れに出資したとは到底認め難い。甲第四号証同第五号証同第六号証第七号証の各一、二、前示証人竹原良子、同野木秀一、同多田市郎の各証言中控訴人主張に副う部分あるも措信し難く他に控訴人主張事実を肯認するに足る資料はない。従つてこの点に関する控訴人の主張は採用し難く、結局本件山林立木の買入及売却は控訴人の単独行為であると認めるを相当とする。

次に本件山林立木の売却に因る所得の額につき検討するに、(1) 収入として山林立木売却代金二百二十万円であること。(2) 必要経費のうち(イ)山林立木買入代金二十五万円、(ロ)買入調査費金五千円、(ハ)買入に関する訴訟をしたため要した費用金二万円、(ニ)買入手数料金七千五百円、(ホ)管理報酬金一万円については何れも当事者間に争がない。而して必要経費のうち(ヘ)売却手数料については控訴人主張の金六万六千円のうち金四万四千円の範囲においては当事者間に争がないけれどもそれを超えさらに二万二千円存在したとの控訴人主張は原審証人多田市郎の証言を措いては他に之を認めるに足る証拠はなく、原審証人多田市郎の証言中控訴人主張に副う部分は成立に争のない乙第十六号証に対比すればたやすく措信し難い。従つて売却手数料は金四万四千円と認めることができ、次に必要経費のうち(ト)買入、管理、売却等の諸雑費として被控訴人は控訴人主張の一万二千円を超えて金一万三千五百円であることを認めているから右金額を認めるを相当とする。

従つて以上必要経費の合計は金三十五万円となる。

してみると控訴人の譲渡所得は前記収入金から必要経費を控除した残額金百八十五万円となる。

(2)  叙上説示によつて控訴人の総所得額は前記認定の事業所得と右譲渡所得の合計金百九十八万七千八百円となる。従つて控訴人の所得総額認定の点においても控訴人主張の如き違法はないから、この点に関する控訴人の主張は採用せず。

(四)  叙上説示によつて、被控訴人の為した本件更正決定には控訴人主張の如き違法はないから、取消すべき筋合ではなく、控訴人の本訴請求は失当として之を棄却すべきものとする。控訴人は本件更正決定のうち所謂譲渡所得の点について再調査を求め、且審査を経た上、出訴したもので、所謂山林所得については再調査を求めたこともなく又審査の決定も経ておらず、従つて右は出訴の目的物にもなつていないに拘らず原判決が所謂山林所得ありとしてこの事を前提として審理を遂げた上控訴人の請求棄却の判決をなしたことは民事訴訟法第一八六条に違反するのみならず、出訴の目的たる譲渡所得の点についての判断を逸脱した違法がある旨主張するけれども原判決は結局控訴人の請求を棄却したのであり正当に帰するから民事訴訟法第三八四条第二項に則り控訴人の本件控訴は之を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき同法第八九条第九五条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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